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エッセイの部

 
    いまだ投了せず
嶋崎 信房 著

1995年3月30日 初版
朝日ソノラマ
価1500円 

副題として、「将棋に命を賭けた男たち」とあるこの本は、プロ棋士になれた人、なれなかった人達の将棋に賭ける生き様を、短編で紹介している。とりわけ、奨励会の年齢制限に疑問を感じている著者の思いが伝わって来る本でもある。
<目次>
幻の名人−大内延介、包丁一本に代えて−永井嘉、止まり木の王将−小滝元靖
自戒の譜−古作登、煙が目にしみる−鈴木英春、たどりつきてなお山麓−富岡英作、女神が最後に−伊藤能、デジタル勝負師−岡崎洋、女流開花の陰で−豊川孝弘天才の蹉跌−先崎学、最後の真剣師−小池重明、若き獅子王−羽生善治

     
 
    将棋狂日記
赤垣 裕介 著

平成11年3月10日 初版
郁朋社

定価1200円


将棋狂日記というタイトルからして、いったいどんな内容なのだろうかと興味深々であったが、1964年生まれの精神科医の方が書かれた本である。将棋好きの医者の方は多い様で、他に、「将棋を愛した文豪たち」という本を書かれた精神科医の春原千秋氏の名前が思い浮ぶ。
本著の内容は、平成9年の将棋界を、著者自ら日記として記録し、本として出版したものである。
1年間の将棋日記が原稿用紙700枚余となり、その中から117日分の原稿を選んだとのことで、随所に棋譜を入れて著者なりの解説が分かり易い。特に谷川先生のファンとのことで、その思い入れと、この平成9年が第55期名人戦で羽生名人に挑戦し、名人復位した年でもあったので、本文から嬉しさが伝わってくる。
それにしても、本当に将棋が好きなんだなあと日記の内容から伝わってくるし、出来れば毎年出してくれれば良かったのにと思うのであるが、職業柄無理からぬことと残念に思う。
本文中に、村山八段(当時)のことが書かれており、この年の6月に手術をし、その直後のB級1組順位戦(二回戦)対丸山七段(当時)との一戦のことに触れ、深夜に及ぶ大熱戦は、胸を熱くする何かがある。ご存知ない方は是非手に入れて、並べてみていただきたい。とあった。この棋譜は、平成12年11月 日本将棋連盟発行の「村山聖名局譜」の中で羽生先生、先崎先生により、詳細に解説されている。


 
    王手 ここ一番の勝負哲学
升田 幸三 著

2001年4月5日 初版
成甲書房

定価1800円


本の表紙には、題名の他に「人生を造るうえで最も確かな方法がここにある。人事百般を盤上の形勢に置き換え偉才が見つけた人生の定跡」とある。本書はまさに、これそのものであり、升田幸三その人が将棋を通して、様々なことについて、かくあるべきと語っているものである。独特な語り口で、迷いがない主張には、升田先生がまるで将棋をさされている時の様な隙の無い、鋭いものが感じられる。その中で、アマとプロの将棋については、「アマとプロでは、構想力が段違いに違います。違うというより、構想力がないに等しい。」と述べられており、構想力とは、具体的には何なのかを指し示してくれていたらと残念に思う。また文化人、財界人との付き合いも広く、文化人では、梅原龍三郎画伯、作家の菊池 寛、藤沢 恒夫、村松梢風といった方々とのエピソードも非常に面白く、財界人の方々も同様に、数々の面白いエピソードが書かれている。あとがきに、将棋を通してすべてのことを盤上の形成に置き換えることにより局面なり状況なり関係なりが見えてくるとある。将棋道とはに触れた気がする。
<目次> 第1章 処世のすべ 第2章 王手 第3章 わが家の系譜 第4章 勝負師たち 第5章 人さまざま


願えば夢はかなうもの
林葉 直子 著

1993年5月20日 初版
講談社
定価1000円

この本のカバーの見出しに、「いつでも大きな夢を持っていよう。 これが私の信条である。 こんな私の人生観。甘い!かもしれないが、これは、すべて将棋というゲームが、私に教えてくれたものだ。願えば夢はかなうもの。・・・」と有る。この本を出版当時の10年前に読むのと、今読むのでは、全然感想が変わって来てしまうかも知れません。この本には、林葉女史が、20代半ばに書かれた当時の将棋に対する純な気持ちが綴られている。男性プロ棋士に勝つことを目標に闘志を燃やしていた日々、それを越えられない壁、将棋を始めたきっかけ、米長先生との出会いと内弟子時代のこと、女流のトップで在り続ける苦しさ等々。真摯に将棋に向かい合う姿が感じられる面白いエッセイである。 なかでも、前向きに考えて生きていかなきゃ、ダメなんだ、とある日、将棋の対局中に突然気がついたとある。難しい局面で、大長考の末、打った手に後悔する時間を無駄費やしたことに気づき、前向きに考えて、最善手を打って行けばと将棋から教わったとある。また、小学校5年生の時に米長先生との指導対局のことにも触れ、飛香落ちの一戦、負けてしまうのであるが、これについては、週間ポストの別冊1982年9月1日号「米長邦雄九段のアマチュア将棋指南道場」に棋譜が掲載されている。

編集者T君の謎
大崎 善生 著

2003年1月23日 初版
講談社
定価1500円


大崎氏と言えば、かつて「将棋世界」の編集長であり、「聖の青春」を書かれたことで有名である。他に奨励会を題材とした「将棋の子」、吉川英治文学新人賞に輝いた「パイロットフィッシュ」、さらに「アジアンタムブルー」がある。本書は、将棋界にまつわるエッセイであり、副題として、将棋業界のゆかいな人びととあるように、将棋界に身を置いている人でないと書けないエッセイが満載である。宮松影水の彫駒と山田道美九段の話、米村圭伍著の「風流冷飯伝」に書かれていた、なぜ、将棋の駒は打つではなく指すなのかに感動した話、写真撮影に関する升田九段との話等々、興味は尽きない。また、森信雄六段との親交と御蔵島への旅の話については、将棋世界92年8月号に写真付で特集記事が有る。さらには、関連として将棋世界93年2月号には、榧の木を求めて日向行の特集記事が有る。
復活
谷川 浩司 著

平成12年6月25日 初版
角川文庫
定価457円


本エッセイは、8章からなっており、谷川先生のありのままの素直な気持ちを語っていると感じることが出来る内容である。大筋は、当時の羽生六冠に七冠を許し、無冠となった平成8年2月から、翌年の平成9年に7年ぶりとなる名人戦で、羽生名人を4勝2敗で破り、永世名人の資格を得るに至る復活物語である。また、平成7年1月17日の阪神・淡路大震災で被災した時の様子や再び将棋が指せる喜び、永世十七世名人として大阪の将棋会館に、「道法自然」と掛け軸としたこと。その並びには、木村義雄十四世名人の「天法道」、大山康晴十五世名人の「地法天」、中原誠十六世名人の「人法地」の掛け軸があるとのことで、「自然とは、あるがままの姿でもあり、大きな摂理を持った宇宙そのものだ。強い者が勝つのではない。悪い手を指した者が負けるのだ。それが、将棋では自然の理である。何度も何度も負けたとしても、自分の道をひたすら歩き続ければ、やがて一本の道が拓けてくる。この言葉は、それを教えてくれているように思う。」と述べている。
なお、上記掛け軸の写真は、日本将棋連盟発行の「将棋ガイドブック」に掲載されている。さらに、対局時の様子も記載されているので、実際の棋譜を谷川浩司全集で追って並べると理解が深まり面白い。
序章 十七世永世名人誕生、第1章 飛翔-復活への願い、第2章 竜王奪還、第3章 死闘を制する、第4章 震災シンドローム、第5章 同時代の覇者、第6章 試練を乗り越えて、第7章 名人危所に遊ぶ


ちょっと早いけど僕の自叙伝です。改訂版
谷川 浩司 著

平成12年12月25日 初版
角川文庫
定価457円

本書は、1989年4月に毎日新聞社より刊行されたものの12年後に文庫化されるにあたっての改訂版とのことである。文庫化のための序章には、この12年間のことが書かれており、パソコンの普及による戦法研究、スランプ、結婚、弟子、羽生さんとの対決等々、そして、最年少名人位記録と並び、最年長名人位記録を取ることが夢と述べられている。他著「復活」同様、将棋に対して真摯に向合う谷川先生の思いが伝わって来る内容である。その中でも名人としての仕事が、アマへの免状の署名が月に500枚、また、ある月のスケジュールが日単位で紹介されており、仕事抜きで過ごせたのは2日だけという多忙には驚かされる。将棋雑誌向けの原稿執筆も数誌あり、多忙の中での対局と、上に行くほど厳しいのは、どの世界でも同じであろう。
第1章 無限-子供の才能と可能性、第2章 高速-劇的な最年少名人誕生、第3章 飛翔-暗転挫折、不屈の勝負師魂、第4章 青春-その光と影と憧憬と・・・

集中力
谷川 浩司 著

2005年9月1日 7版
角川書店
定価571円

集中力をテーマにした本書は、第1部 将棋から学んだ「勝利の気迫」、第2部 勝負に勝つ能力を伸ばす、の2部構成となっている。棋士の本当の強さの基盤になるのが集中力であり、羽生さんが、長考に入った時、他の棋士からは感じられない集中力を感じるとのことである。強さの基本は集中力であり、集中力の基本は、「好き」であることの持続、さらに、1つのことを努力し続けることを苦にしないことがもっとも大事な才能であると考えているとのことである。
果たし合い
団 鬼六 著

平成9年6月25日 初版
幻冬舎文庫
定価495円

団氏は、将棋界と非常に関わりの深い作家であり、かつてオーナーであった「将棋ジャーナル」誌の1992年8月号、小池重明追悼号は、小池氏の貴重な写真や、思い出話が載せられている。また、団氏の将棋の師匠である富岡七段(当時)の昇段祝賀会と、もう一人の師匠であった小池氏の追悼記事が有るが、本書に収録されている題名ともなったエッセイ「果たし合い」に両名が登場する。内容は、団氏が一度指南番から遠ざけた小池氏が、再び指南番にと望むことに対して、アマ強豪、奨励会三段の刺客と対戦させ勝利を収めればというものであるが、団氏の将棋の取り巻きが実に生き生き語られており面白い。また、本書には、あの懐かしいコメディアンたこ八郎が団氏の事務所の社員であった時の思い出を綴る「思い出のたこ」、なぜ溺死してしまったのかが垣間見れる。他作品は、明治元年に起きた堺事件を題材とした土佐藩の悲劇を描いた「駒くじ」、将棋を指す任侠の「姐御」、「フグの食べ方教えます」、「宇宙人の将棋」、「養老酒場」、「思い出の二人」、これら名エッセイであり、何れも非常に面白い。
果たし合い
団 鬼六 著

1989年9月30日 初版
三一書房
定価1300円
幻冬舎文庫からも、出版されている同タイトルの本書は、収録作品が、若干異なっている。重複しているのは、「果し合い」、「思い出のタコ」、「姐御」、「駒くじ」であり、異なるものは、「新春ぼやき節」、「天狗時代」、「秋」、「平成元年是好日」、「うわばみ」の5作品。中でも、団氏の青春時代、文藝春秋のオール新人賞に応募した作品が新人賞となり、これをきっかけに、文藝春秋社に就職しようとして、社に編集長を尋ねるが、不在のため、地下のレストランで待つことになる。そこで、ひょんなことから関係者と将棋を指すことになるのだが、そこでの人との出会いを描いた「天狗時代」、そして、秋葉原ラジオ会館の春の旅行会に招待され、七條社長のお酒好きと人となりを描いた「うわばみ」が面白い。ちなみに七條兼三氏は、詰将棋作家でもあり、著書に「将棋墨酔」がある。「 将棋讃歌 第47号 特集 詰将棋乃世界 S56.7.1発行」 に七條氏の特集記事「七條兼三と詰キストたちの夜」と題して、炬口勝弘氏による記事が掲載されている。内容は、詰将棋作家の黒川氏、門脇氏、岡田氏らとの座談会の様子、七條氏のスナップ写真、生い立ちについてがあり、本書と併せて読むとより面白い。
一葉の写真
先崎 学 著

1992年2月20日 初版
講談社
定価1400円
世界は右に回る
先崎 学 著

平成9年12月10日 初版
平成10年9月1日 第3刷
日本将棋連盟
定価1500円
愉快 痛快 棋士365日

昭和57年6月30日 初版
昭和57年9月10日 第2刷

日本将棋連盟 (新書)
定価900円