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  小説の部ミステリー 2/3

  津村*秀介 作品
仙山線殺人事件

昭和60年9月10日 初版
廣済堂出版
定価680円
山形と仙台を結ぶ仙山線を舞台に、賭け将棋の真剣師二人、戸倉と久我が、同日の仙台と山形のホテルでそれぞれ殺害された。が、しかし、双方の被害者が、互いの被疑者になるという有りうるはずのない関係が、状況証拠から出来あがってしまっており、しかも同一の手口で・・・。果たして犯人の動機は、いかに。 真剣師たちの将棋大会が、宝塚と仙台、山形と同時開催となり、真剣師仲間4人がそれぞれの会場に分かれて真剣を差すのだが、宝塚組みにアリバイが成立するのかどうかが焦点となっており、緻密に練り上げた構成が非常に良いと感じられる作品である。 ルポライター浦上伸介が本事件の取材を通して謎に挑むという形式は、他作品にも共通であり、是非、他作品も読んで見たいと思っているが、将棋関連のミステリーはこの1作のみと思われる。 他は、旅情ミステリーと称している作品である。



昇仙峡殺人事件

1994年1月30日 初版
青樹社
定価780円
津村氏のミステリー作品において、将棋関連作品は、上記の仙山線殺人事件のみと思っていたが、この昇仙峡殺人事件の本の中にも作品が1編収められている。この本は8編の短編からなるもので、その中の1編が本のタイトルとなっており、仙山線殺人事件の主人公の浦上伸介が登場する作品である。 将棋関連作品としては、「蟻とジャックナイフ」という作品であり、30歳を過ぎた鬱屈した将棋好きの青年の心の内面を近所に引っ越して来た女と老人の存在に絡め、また将棋関連の用語を使って表現をするといったちょっと変わった内容のものである。 もちろん事件は、起こるのであるが、推理小説ではなく、もっと広い意味でのミステリー作品である。
あとがきによると、本作品の初出誌は、「季刊将棋」昭53.6(原題:雨の中の収束)とのことである。 




古都の喪章

2004年8月25日 初版
ワンツーマガジン社
定価819円
ルポライター浦上伸介が活躍する本作品は、新大阪駅に着いた臨時新幹線のトイレ内で、胸を刺された男の死体が発見され、近くの屑物入れからは、犯人のものと思われる真新しい紳士用の革手袋が・・・。そして、数日後、東北の港町塩釜市のアパート「福富荘」でも男がナイフで刺されて他殺体で発見される。現場近くの駅からは新幹線で見つかったものと同じ革手袋が発見され、2つの事件の容疑者が浮かび上がってくるが、鉄壁のアリバイがあり浦上伸介がこのアリバイ崩しに挑む。本作品は、アリバイに一役かっている将棋クラブの親睦旅行が描かれており、旅行の様子が面白い。


 本岡*類 作品
飛車角歩殺人事件

昭和59年1月10日 初版
講談社
定価620
本作品は、探偵役の将棋棋士 神永英介七段と東都日報学芸部将棋担当記者の高見智彦の二人が、次々に起こる殺人事件の真相を解明するというものである。殺人事件は、「名王戦」を戦う桐林名王と挑戦者の連城八段の七番勝負にそって時系列的起こり、大日本将棋連盟には、将棋の駒にまつわる謎めいた脅迫状が届く。名王戦の勝敗の行方と犯人はいったい誰なのか、動機は如何に。随所に将棋のタイトル戦の様子や、将棋駒の解説、新聞社とタイトル戦の話等々、将棋界の話が盛りだくさんであり、作者の思い入れが感じられる作品である。



女流棋士殺人事件

昭和59年10月5日 初版
講談社
定価640
「飛車角歩殺人事件」に続く将棋ミステリー第2弾の本作品は、美人女流棋聖の森島真理子が何者かに殺害され、その手には7手詰の詰将棋図が残されていたことから始まる。この意味するところは何か?果たして犯人は誰なのか。探偵役の将棋棋士 神永英介七段と手助けをする東都日報学芸部の将棋担当記者の高見智彦、神永七段の娘佐紀が謎解きに挑むが、更なる殺人が起きてしまう。随所に将棋関連の話、例えば大盤解説の会場風景描写や、女流棋界の話、カヤ盤のことなど、将棋ミステリーに相応しい内容となっている。また、女流棋士を題材とした小説は珍しく、東京と高山を結んだストーリー展開は面白いものに仕上がっている。


奥羽路七冠王殺人事件

平成9年4月30日 初版
祥伝社
定価819
将棋棋士探偵 水無瀬 翔五段が活躍するシリーズの第1作目にあたる本作品は、山形・月野温泉の対局で若き棋士桐島が、将棋界初の7冠王となるがしかし、その誕生した夜に対局場となった旅館の裏山で元将棋ライターの名取が撲殺されてしまう。そこに居合わせた水無瀬五段が、将棋連盟から事件の独自調査を命じられ、真相に迫って行くという内容である。7冠王・桐島に対し、警察の疑惑の目が注がれるのはなぜか。名取との接点は・・・。果して犯人は桐島なのであろうか。名取は、「首のない獅子の背中から、名人を巨人の口に移さなければならない。」と書かれた意味深なメモを残していたのだが、この意味はなんなのであろうか。そして事件は意外な方向へと移り、第2の殺人事件が起きてしまう。この本のカバーには田中寅彦九段「心配なほどの現実感!将棋&推理ファン必読の傑作!」とい推薦文が載っており、山形へ松山から広島経由で向かう機中で一気に読破したと記されている。



花の罠

1997年12月 初版
祥伝社
定価819
将棋棋士探偵 水無瀬 翔五段が活躍するシリーズの第2作目にあたる本作品は、大和路・萩の寺に消えた女と副題がついており、古都奈良の百毫寺で女流将棋名人御影真理子が誘拐され、身代金五千万円を要求されることから始まる。将棋連盟から現地に派遣されるのが水無瀬五段であり、身代金の受渡し役もさせられ、まんまと犯人側に身代金を取られてしまう。やがて女流名人発見の報がもたらされますが、監禁場所には、誘拐犯らしき女の刺殺体と、女流名人の指紋が付着したナイフが・・・。はたして事件の真相は如何に。美しい古都奈良の情景に、女流名人御影真理子と、水無瀬五段の協力者である青山 桜初段の両美人と登場と、華やかな作品となっているので、TVのサスペンスドラマ化してほしい作品である。アリバイトリックには携帯電話が使われている。



「黒い箱」の館

1999年4月25日 初版
光文社
定価800
将棋棋士探偵 水無瀬 翔五段が活躍するシリーズの第3作目にあたる本作品は、熊野山中の旧家・里見家の白い館が舞台となっている。水無瀬五段は、棋士の夏休みにあたる8月に知り合いの盤師の品田重吉に誘われて、山林地主の里見家に逗留することになるのだが、遺産相続が絡む連続殺人事件に巻き込まれてしまう。この作品には、里見家所有の榧の木が登場し、盤師の品田重吉が、将棋盤に仕上げる為に現地に赴くといった設定である。本文においては、将棋盤のこと、榧の木のことが述べられており、内容に厚みを持たせている。ちなみに参考文献として「碁盤・将棋盤 棋具を創る」(大修館書店) 吉田寅彦著 が上げられています。また、国内産榧の産地の1つでもある和歌山県という設定と相俟って熊野神社、熊野古道の話等面白い。軽妙なトリックと犯人は最後の最後まで判らないのである、なるほどといった読後感を味わえる。



「不要」の刻印

2001年1月30日 初版
光文社
定価838
将棋棋士探偵 水無瀬 翔五段が活躍するシリーズの第4作目にあたる本作品は、カバーに記された「著者のことば」によるとテーマからプロット、トリックまですべて上手くいった自信作とのことである。もし不安があるとすれば、この先これを上回る本格推理を書けるかどうかとのことで、私自身、最高傑作を最初に読んでしまったのかと、ちょっぴり後悔している。がしかし内容は、かなり面白く、氏の作品をもっと読みたいと感じさせるに十分であった。日曜大工関連用品等を扱う「パレット・ホームセンター」の社長の一人息子が誘拐されてしまい、犯人要求の身代金三千万円の受け渡し現場に偶然居合わせた棋士の水無瀬五段に誘拐の嫌疑がかけられてしまう。偶然にも奨励会時代の後輩の安野好平が、パレット・ホームセンターに勤めており、安野にも嫌疑がかけられ、捜査は益々混迷の色を深めて行く。水無瀬は、安野から、社長を紹介され事件解明に乗り出すが、ついには殺人事件が起きてしまい、安野が逮捕されてしまう。後輩を助けるべく、調査を進めてゆくがそこには、意外な真相が隠されていた。本作品の登場人物として、元奨励会員の人のいい安野、その恋人の一流になれそうもない美容師の卵、そして主人公の水無瀬自身もCクラスで足踏みをしているという人物像が、現実味を持たせるための重要な役割を持っているのだろう。


 林葉 直子 作品
アバンチュール

1996年8月7日 初版
竹書房
定価1400
本作品は、5編からなる短編集であり、カバータイトルに「恋愛映画なら、きっとそんなラストシーンが用意されているのに・・・。 愛しくせつない不倫ミステリー。」とある。 文章、内容共に、なんとなく阿刀田 高と似ているなあと感じたが、なかなかのミステリーである。ミステリーといっても不倫が主題材となっており、各編とも読後感は、女は怖いねえという感じである。林葉女史は、とんでもポリスシリーズが有名であるが、本作品では、5編中の2編に、将棋の棋士が主人公として登場する。I章のジンクス・・・トップ棋士に10年間も送られて来る見知らぬ「さちこ」からの赤い封筒に入った手紙、対局の当日に受け取ると不思議と勝てるジンクスを感じるが、訝りながらも心待ちにする自分と、さちこの他愛もない内容から自殺をほのめかす内容へと変わって行き、ついには・・・。棋士の微妙な心理描写が面白い。「さちこ」の正体を知った時、なるほどねえと思わされる内容も良い。本のタイトルにもなっているV章のアバンチュールは、24歳の女流将棋名人・雨野めぐみが主人公であり、不倫相手に40歳の若手政治家のというシチュエーションである。めぐみは突然将棋界から姿を消し、ロンドンで若手政治家と会う。その後取材をしに週刊誌記者がやって来てインタビューに応じるが・・・。この内容って、うーんと唸ってしまうが、必読の価値有り。他、II章 悪戯、III章 ダミアンな気分、IV章 不倫レッスン。



キッスは死の香り

1992年5月25日 初版
集英社
定価1100
本書のあとがきに、少女向けの小説ばかり書いていないで、大人向けのものを書いてみたらどうだと言われその気になったとある。また、「人生の根源はスケベにあり」という哲学を持っているとのことで、本作品の中にも性的描写を女史が頑張って表現して書いたという部分もあり、りっぱなサスペンス小説に仕上がっている。24歳の時の作品、内容的にも十分面白い。女子大生静香と多紀がアパートで2人暮らしをしていたが、大学の理事長の息子と静香がデートに出かけてから2人が事件に巻き込まれて行くというストーリーである。将棋関連では、事件担当の刑事が升田警部補という名で登場し活躍する。