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小説の部ミステリー 3/3

  内田 康夫 作品
王将たちの謝肉祭

平成7年 5月10日 4刷
廣済堂文庫
定価480円
内田 康夫氏といえば、旅情ミステリー、浅見光彦が連想されるが、本書は異色の作品となっている。物語は、大道棋士 今井清司の娘であり、女流棋士の香子が、女流王将戦を戦った帰りの新幹線の中で、見知らぬ男から一通の封書を預かることから始まりまる。男は「これ、頼む。あとで取りに行くから」と言い残すが、後に殺されてしまう。封書に書かれていた内容は、将棋連盟会長の北村英助の名で「九段の件、成就の際には・・・。」と何やら曰くありげな内容が書かれており、更なる被害者が・・・。本書の登場人物としては柾田圭三九段、連盟の理事である永世名人大岩泰明、名人中宮真人、吉永春雄八段といった現実の棋士の名前をもじって登場させている。内容的にも、一部現実とダブらせており、氏の将棋界の見識の深さ、特に升田幸三への思い入れが感じられる作品となっている。謎解きよりも、将棋界のことの方を重きをおいている感が強く、これはこれで一局という小説である。


 中町*信 作品
天童駒殺人事件

1993年10月15日 初版
徳間文庫
定価500円
中町氏のミステリーは、推理作家の氏家周一郎と妻の早苗が温泉旅行先で殺人事件に遭遇し、事件を解決するというスタイルの氏家周一郎夫妻シリーズと、課長代理・深水文明シリーズの二大シリーズがある。本作品は、氏家周一郎夫妻シリーズの七作目にあたるもので、氏家周一郎の妻の早苗が、通っているカラオケ教室の親睦旅行で天童温泉に行き、そこで参加メンバーの女性が殺されるところから、連続殺人へとストーリーが展開されて行く。それにしても、出だしはゆっくりしたテンポで最初の殺人事件が発生し、徐々にテンポを上げ、次々に殺人事件を起こして行くストーリー展開には、少々驚かされるとともに、綿密に構想が練られていると感じる。アリバイの時間トリックも面白い。将棋関連としては、左馬の飾り駒が登場するが、本作品の中で重要な役割を担っている。 


 山村 正夫 作品
振飛車殺人事件

1982年 2月15日 初版
徳間文庫
定価320円
山村正夫氏は、推理文壇界で斎藤栄氏、高木彬光氏と並ぶ愛棋家とのことである。本作品は、C級二組に所属する女流棋士の小柳カオリが主人公であり、探偵役を務めている。女流棋士が男性棋士に混じって四段という設定は、愛棋家ならではの設定だと思う。 さて、この小柳カオリ四段は、父親が八段であり、弟子のアマ五段の警察署長の紹介で、警部の小柳堅太郎と最近結婚した新婚ホヤホヤという設定である。このことが巧みに女流棋士を、事件に無理なく絡ませる背景としている。この本には、中篇の3編が収められている。それは、「振飛車殺人事件」、「詰将棋殺人事件」、「棒銀殺人事件」の3編。 すべて、小柳カオリ四段が活躍する内容である。「振飛車将棋殺人事件」は、宝くじで1等を当てたクリーニング店の店主が殺されてしまうのであるが、現場となった店内は、コタツの上に駒組をくずした折りたたみ式の将棋盤が置いてあり、店主はそれに向かってうつぶせの姿勢で絶命しており、金に困った将棋仲間に疑いが向けられるが、鉄壁のアリバイが・・・。棋譜をアリバイに結びつけた構成は面白い。「詰将棋殺人事件」は、アマ四段の男性がマンションの一室で被害者となって発見される。本作品には、投稿用の詰将棋を被害者が作り、郵便ポストに投函する行為がアリバイと結びつけている。 「棒銀殺人事件」は、不動産会社の専務が出張先のホテルで惨殺死体として発見される。被害者を取り巻く人間関係から徐々に犯人が浮かび上がってくるのだが、容疑者には鉄壁のアリバイが成立している。これを小柳カオリが夫の堅太郎警部に協力して事件を解決に導いて行く。本編で特徴的なのは、第I章 事件の序盤、第II章 事件の中盤、第III章 事件の終盤、第IV章 死角の詰手 という将棋用語を使っていることである。一局の将棋に準えて推理小説を構成している点が見事であり、アリバイトリックも面白い。サスペンスドラマ化してほしい作品である。題名の棒銀と作品の中身については、ラストのページで明らかになるが、アリバイトリックには関係していない。その後の小柳カオリシリーズとしては、「陸奥こけし殺人事件」、「丹後半島鬼駒殺人」の2つの作品がある。


 亜木 冬彦 作品
殺人の駒音

平成4年 5月25日 初版
カドカワノベルズ
定価760円
16年前、奨励会三段の八神香介が、13歳の天才少年棋士谷山光輝三段に、この1局を勝てば念願のプロ四段になれるはずの1局に寸でのところで負け、奨励会を去ることから、本物語は始まる。傷心しきった身体を引きずって将棋会所に入り、真剣師と出会い、自らも真剣師に身も心も投じてゆく。そして今、死神香介として第5期竜将ランキング6組1回戦に姿を表してから、次々とプロ棋士が被害者となる殺人事件が起こる。果して事件の真相は如何に。真剣師を主人公とした小説では、夢枕 獏の「風果つる街」に登場する真剣師 加倉文吉が上げられるが、本作品の八神香介もニヒルな良い味を出している。第12回(1992年) 横溝正史賞特別賞受賞作。


 大沢 在昌 作品
走らなあかん、夜明けまで

2004年 3月25日 第15刷
講談社文庫
定価590円
東京から出張で大阪にやって来たごく平凡な食品会社のサラリーマン坂田勇吉は、自分の名が坂田三吉と一字違いなこともあって、将棋好きな青年である。大阪についたその足で、関西将棋連盟本部の将棋博物館に立ち寄ることにしたのだが、そこで、会社の新製品を入れていたアタッシュケースが置き引きにあってしまう。必死に、犯人を追跡するのだが、そこにはヤクザ同士の取引が絡んでおり、事態は、とんでもない方向に進んでしまう。途中でホステスの真弓、めっぽう喧嘩が強いケンさんとの出会いも面白く、非常にテンポ良く進むストーリー展開は、素晴らしく、ドラマ化してほしい作品である。


 西村 京太郎 作品
十津川警部 千曲川に犯人を追う

1997年 10月5日 初版
講談社
定価790円
本書は、数多くミステリーを書かれている西村京太郎氏の作品の中で、将棋棋士が描かれている唯一の作品と思われる。都内で発生した連続幼女殺人事件、容疑者のモンタージュにより、名人戦に臨む挑戦者の宗方八段が捜査線上に浮かぶ。そんな中、長野県の上山田温泉で名人戦第一局が始まるが、現地でまた忌まわしい殺人事件が発生してしまう。宗方八段をマークする十津川警部と亀井刑事、執拗に宗方八段を犯人と信じ、つけまわす週刊誌の伊地知記者が入り乱れて、果たして事件の真相は如何に・・・。奨励会のこと、プロ棋士の順位戦の話、名人戦会場での大盤解説等が本文に盛り込まれており、将棋を題材とした面白い作品となっている。